読書感想文『さいごの色街 飛田』:あの独特の空間を成り立たせる歴史と人々のノンフィクション

こんにちは。

長期でアメリカに出張に行くにあたり、空港で何冊か本を買っていきましたが、そのうちの一冊。 

 中学生のころ近鉄南大阪線沿線に住んでいた私が、阿部野橋にある映画館に映画を見に行くことがありました。で、父親に映画館周辺の地図を描いてもらったんですが、その際に「こっちのほうは行ったらあかんぞ」と示された場所があったのです。そのときはヤクザでもいるのかなと思って聞き流していましたが、今思えば飛田新地のある場所でした。

飛田新地とは…

飛田遊廓(とびたゆうかく)は、大阪市西成区の山王3丁目一帯に存在した遊廓、赤線。大正時代に築かれた日本最大級の遊廓と言われた。現在もちょんの間が存在し、通称飛田新地(とびたしんち)と呼ばれる。

Wikipediaより

ということで、現在に残る遊郭です。大昔から存在するのかと思ったら色々な経緯で大正時代に作られた遊郭のようです。

本書は著者が飛田新地に何年にもわたって通い続け、自らの足と身体で取材をしたノンフィクションで、本当に労作です。飛田新地というのは街全体が撮影禁止になっているとのこと。本書のなかでも飛田新地内で写真を撮影したとして、痛い目に会う若者の姿が描かれています。そんな街で取材することの難しさは想像に難くありません。

著者は一見行き当たりばったりとも思える程、体当たりで人に話しかけます。店や家を訪問します。そのため強い拒絶を受けることもありますが、どちらかと言えば身構える隙をあたえないまま会話が始まり結果的には多くの情報を得るに至るケースが多いようにみうけられました。臨場感はスリリングでもあります。

取材の手法にはいささか疑問を感じる部分もあります。しかし長い月日をかけることにより多くの人との出会いを得、徐々に一部の人からは信頼を獲得し、書き上げています。また、働く女性との会話やインタビューなど男性では描ききれないだろう箇所を描けているのは女性の著者ならではでしょう。

ちなみにわたしは、飛田新地で(本当の料亭の)鯛よし百番には上がって食事をしたことがありますが、それ以外の料亭に上がったことはありません。ただ、百番からの帰りに通り抜けるだけでも「ここは本当に現代の日本か」と不思議な気持ちになりました。見るだけでも価値があるなぁと思ったものです。もっとも、本書の最後に

本書を読んで、飛田に行ってみたいと思う読者がいたとしたら、“おやめください”と申し上げたい」「客として、お金を落としに行くならいい。そうではなく、物見にならば、行ってほしくない。

とあるので、これに従えばお金を落とさないわたしは非常に迷惑な通行人だったのかもしれません。著者には「お前が言うな」という気持ちにはなりますが。。。

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ちなみにその時に撮影した鯛よし百番の外観と中庭。ピントがあっていないのは何かに配慮したわけではなく技術の問題でした。そうそう、鯛よし百番と梅田のすーぱー百番が系列だとこのとき初めて知りました。

それはともかく、あの不思議な空間がどのようになりたっているのか。歴史的な経緯や、あの街を構成する人たちの一面を垣間見ることができるおもしろい本です。